【結論】アール・ブリュットは内側からの衝動だけで生まれた表現を指す言葉。作者の属性を指す言葉ではありません。
森陽香さんの経歴をたどると、ひとつ大きな展覧会の名前に行き当たります。
「アール・ブリュット ジャポネII」。会場はなんとパリでした。
放送は2026年9月27日(日)朝8時55分、NHK Eテレ「no art,no life」。
番組では語られなさそうな背景を、先に見ておきましょう。
- 名づけ親はフランスの画家ジャン・デュビュッフェ
- 意味は「生(なま)の芸術」
- 会期は2018年9月8日〜2019年3月10日
- 会場はパリ市立アル・サン・ピエール美術館
- 並んだのは日本人作家52名・633点
- 2010〜2011年の第1弾に続く2回目の企画
- 主催には東京都も入っている
- アール・ブリュットという言葉の意味
- パリの展覧会の規模と内容
- 「障害者アート」との関係についての予想
- 森陽香さんがどう位置づけられるか
まず編集部の予想を、そのあとで展覧会の記録をご紹介します。
【予想】「障害者アート」の言い換えと思うと、大事なところを取りこぼす
ここからは編集部の予想です。
編集部は、アール・ブリュットを「障害のある方の作品」の丁寧な言い方だと受け取ると、かなり大きな取りこぼしになると考えます。
そう考える根拠を7つ書きます。
根拠1。定義に障害の話が出てこないからです。
提唱者デュビュッフェの言葉は「完全に純粋で、なまで、再発見された、すべての相の総体における作者による芸術活動であり、作者固有の衝動だけから出発している」でした(はじまりアーカイブス)。
条件になっているのは描く動機であって、作者がどんな人かではありません。
根拠2。趣旨文が現代アートの話として書かれているからです。
説明は「アール・ブリュットが現代アートの領域で独自の存在感をもつようになる中で」と始まります。
福祉ではなく美術の言葉で語られています。
根拠3。手法の幅が広すぎるからです。
「伝統的な陶芸から折紙の応用のようなものまで」とあります。
ひとつの属性でまとめられる表現ではありません。
根拠4。主催に東京都が入っているからです。
主催は東京都、パリ市立アル・サン・ピエール美術館、社会福祉法人愛成会の3者。
自治体の文化事業として組まれていました。
根拠5。海外の美術館が会場だからです。
アル・サン・ピエール美術館は、アール・ブリュットや独学の作家を扱う館として知られています。
そこで2回目の日本特集が組まれたこと自体が、美術としての評価を表しています。
根拠6。ひとりずつ名前で語られているからです。
趣旨文では、2013年のベネチア・ビエンナーレで賞賛された澤田真一さんが名指しで紹介されています。
ひとまとめではなく個人として扱われています。
根拠7。番組の趣旨も同じだからです。
「no art,no life」は「既存の美術や流行・教育などに左右されない独創的な美術作品を生み出すアーティスト」を紹介する枠。
やはり基準は作品のほうにあります。
付け加えると、日本のアール・ブリュットの担い手に障害のある方が多いのは事実で、この展覧会にも福祉法人が入っています。ただ「だからアール・ブリュット=障害者アート」と置き換えてしまうと、作品ではなく作者の属性で見る癖がついてしまいます。森さんの絵に輪郭線がないのは、まず絵の特徴。理由としての体の話は、そのあとに来ます。この順番を守ることが、言葉を正しく使うコツだと考えられます。
というわけで、アール・ブリュットは作品がどこから出てきたかを指す言葉だと予想します。
ただし定義には研究者のあいだでも幅があり、これは編集部の理解です。
パリの展覧会はどれくらいの規模だったのか
森さんが出展した展覧会の記録を、先に数字で見ておきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会期 | 2018年9月8日〜2019年3月10日 |
| 会場 | パリ市立アル・サン・ピエール美術館 |
| 出展作家 | 日本人作家52名 |
| 作品点数 | 633点 |
| 主催 | 東京都/同美術館/社会福祉法人愛成会 |
| 位置づけ | 2010〜2011年の第1弾に続く第2弾 |
会期はおよそ半年。
企画展としてはとても長く、それだけ大きな催しだったことが分かります。
この展覧会は「パリ東京文化タンデム2018」という、パリ市との姉妹都市提携にもとづく事業のひとつでした。
森さんの絵は、その枠組みに乗って海を渡ったことになります。
アール・ブリュットという言葉の意味
アール・ブリュット(art brut)はフランス語で、直訳すると「生の芸術」になります。
名づけたのはフランスの画家ジャン・デュビュッフェ。
美術の教育や流行から離れたところで生まれた表現を指して使い始めました。
大事なのは、上手い下手を問う言葉ではないということ。
技術ではなく、その表現がどこから出てきたのかを問う言葉です。
こうした作品をまとめて眺めてみたいときは、画集が1冊あると理解が進みます。
▼ 画集はこちらから
※展覧会の記録集や作品集などが探せます。
どんな展覧会だったのか
趣旨文には、この展覧会が何を伝えようとしたかが書かれています。
「出展作家52組からは、どの文化にも独自の神話や表現手法を生み出すアーティストがいるということが分かります」。
日本の作家を紹介しながら、テーマはもっと広いところに置かれていました。
「本展には初めて海外出展される展示作品も多くあります」とも記されています。
森さんにとってもこの回が初めての海外出展で、国内で積み上げた評価が外に出た形でした。
連携企画として、知的障害のある方によるプロの和太鼓集団瑞宝太鼓の公演も行われました。
2019年2月にナント市とパリ日本文化会館で実施されています。
森陽香さんはどんな作家か
森さんは1988年に福島県で生まれ、郡山市の事業所パッソに週3日通いながら制作しています。
両腕が不自由なため脚を使って描くのが特徴で、動物や魚、虫といった生きものを、輪郭線を引かずに描いてきました。
国内では2008年に産経はばたけアート・フェスタで優秀賞、2020年には福島県障がい者芸術作品展で日比野克彦賞を受けています。
パリ展の前後で国内と海外の評価が重なった作家です。
よくある質問(Q&A)
Q1. アール・ブリュットは何語ですか?
フランス語です。
art brut と書き、「生の芸術」という意味になります。
Q2. アウトサイダー・アートとどう違いますか?
アウトサイダー・アートは、アール・ブリュットにあたる考え方を英語圏で言い換えた言葉として広まりました。
重なる部分が大きい一方、使われ方には差があります。
Q3. この展覧会はまだ見られますか?
いいえ、2019年3月10日で終了しています。
記録は公式アーカイブで公開されています。
Q4. アル・サン・ピエール美術館はどこにありますか?
フランスのパリ市にある市立の美術館です。
アール・ブリュットや独学の作家の作品を扱う館として知られています。
Q5. 第1弾はいつだったのですか?
『アール・ブリュット ジャポネ』は2010〜2011年に開かれました。
今回のIIは、その続編にあたります。
Q6. 森さんはどの作品を出したのですか?
出展した作品名は公表されていません。
公式アーカイブに載っているのは、出展したという事実と会期・会場までです。
放送で見ておきたいところ
5分の番組でパリの話が出るかどうかは分かりません。
それでも経歴を知っていると、画面の見え方が変わります。
福島の事業所で描かれた絵が、半年のあいだパリの美術館に並んでいた。
その距離を思い浮かべながら見ると、1枚の重みが違って感じられるはずです。
まとめ
アール・ブリュットは、フランスの画家ジャン・デュビュッフェが名づけた言葉です。
指しているのは作者の属性ではなく、作者固有の衝動だけから出発した表現でした。
森陽香さんは、2018年9月から2019年3月までパリ市立アル・サン・ピエール美術館で開かれた「アール・ブリュット ジャポネII」に出展。
日本人作家52名・633点が並んだ展覧会でした。
放送は9月27日(日)朝8時55分からNHK Eテレ。
9月30日の23時50分にも放送予定があります。

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