【結論】ベトナム政府は2026年9月10日から、契約終了後に自らの意思で海外へ不法残留した労働者へ、8,000万〜1億ドン(約48万〜60万円)の罰金を科します。
- 根拠は政令283/2026/ND-CP。2026年8月19日公布、9月10日施行です
- 罰金は労働者本人だけでなく、勧誘した業者や送り出し機関の支店にも科されます
- 海外就労分野の処罰の時効が1年から2年へ延びました
- 施行前に、日本の入管へ出頭して帰国手続きを取る人が増えていると報じられています
「ベトナム 不法滞在 罰金」という検索が急に伸びています。金額の大きさが目を引きますが、知りたいのは「自分や自社が対象になるのか」「9月10日を過ぎたらどうなるのか」という点ではないでしょうか。
この記事では、政令の中身を金額ごとに整理したうえで、日本側の統計と入管の動きを合わせて読み解きます。罰金を科すのはベトナム政府であり、日本の処分とは別の話という点も、あとで詳しく触れます。
【考察】ベトナムはなぜ今、不法残留に最大60万円の罰金を科すのか
私はこの政令を、「増えすぎた失踪を止めるため」ではなく、「送り出し国としての取引条件を守るため」の手だと読んでいます。数字を並べると、その方向がはっきりします。理由を3つ挙げます。
理由1:日本での不法残留は、すでに減っている
出入国在留管理庁によると、2026年1月1日現在の不法残留者は6万8,488人で、前年から6,375人(8.5%)減りました。国籍別の最多はベトナムの1万1,601人ですが、こちらも前年から2,695人の減少です(出入国在留管理庁)。状況が悪化している最中の緊急対応ではありません。減っている局面で罰則を積み増したという事実は、目的が別にあることを示していると考えます。
理由2:罰金の水準が「平均年収を超える」ように置かれている
報道では、ベトナムの平均年収は約40万円とされ、今回の罰金は年収を上回る額にあたります(テレビ朝日)。回収の実効性だけを考えるなら、払える範囲に設計するはずです。あえて払いきれない額を置いたのは、収入を得るためではなく判断を変えさせるためだと私は見ています。実際、施行を待たずに帰国を選ぶ動きが出ている点は、その狙いが働いている証拠に見えます。
理由3:矛先が労働者より「送り出す側」に広く向いている
政令では、無資格で勧誘や仲介を行った組織・個人にも8,000万〜1億ドン、許可の範囲を超えて労働者を送り出した支店には1億8,000万〜2億ドンという、労働者本人より重い罰金が定められています。さらに海外就労分野の処罰時効が1年から2年へ延長されました(ベトナム政府政策情報サイト)。時効の延長は、業者を後から追いかけるための道具です。個人を罰するだけなら必要のない改正だと考えます。
日本は2027年に技能実習から育成就労へ制度が移り、送り出し国の管理体制がこれまで以上に見られる局面に入ります。受け入れ枠を確保したい国にとって、失踪率は交渉材料そのものです。ベトナムが自国側の仲介構造にまで手を入れたのは、その席を守る動きだと私は読んでいます。あくまで予想であり、断定ではありません。
政令283号で決まった罰金の中身
今回の政令は6章68条からなり、労働・社会保険と、契約に基づいて海外で働くベトナム人労働者に関する行政処罰を定めています。海外就労に関わる主な金額は次のとおりです。
| 対象となる行為 | 罰金額(ドン) | 日本円の目安 |
|---|---|---|
| 契約終了後に自らの意思で不法残留 | 8,000万〜1億 | 約48万〜60万円 |
| 無資格での情報提供・勧誘・仲介 | 8,000万〜1億 | 約48万〜60万円 |
| 不法残留を強要・勧誘・欺いて行わせる | 8,000万〜1億 | 約48万〜60万円 |
| 許可範囲外で労働者を送り出した支店 | 1億8,000万〜2億 | 約108万〜120万円 |
| 直接契約で登録確認書がない場合 | 500万〜1,000万 | 約3万〜6万円 |
罰金のほかに、没収、資格証の一時剥奪、事業停止、外国人労働者の国外退去といった措置も併せて定められています。違法に集めた金銭は、利息を付けて労働者へ返還させる規定も置かれました。
制度の名前や在留資格の仕組みは、日本語でも用語がややこしい分野です。受け入れ側で確認する立場の方は、手元に1冊置いておくと調べる手間が減ります。
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なぜ日本の入管に出頭する人が増えているのか
施行日を前に、東京出入国在留管理局では帰国手続きのために訪れる人が増え、待機の列が6階から7階まで続く状態になったと報じられました。入管庁は「現場感として、出頭してくるベトナム人不法滞在者の数が増えている」と述べており、詳しい統計は公表されていません(テレビ朝日)。
背景として、日本ベトナム国際交流機構の代表理事は罰則強化に加え、円安と外国人に関する政策の厳格化で生活が苦しくなったことを挙げています。日本で働き続ける利点が薄れたところに、母国側の罰金が重なった形です。
- 自ら窓口へ出頭して出国命令を受けると、収容されずに帰国できる
- 施行日より前に手続きを終えたいという判断が働いている
- 円安で、日本で働き続ける金銭的な利点が下がっている
日本側の数字はどうなっているのか
出入国在留管理庁が公表した2026年1月1日現在の不法残留者数は、上位10か国のうちスリランカを除くすべてで減少しました。国籍別の内訳は次のとおりです。
| 順位 | 国籍・地域 | 人数 | 前年からの増減 |
|---|---|---|---|
| 1 | ベトナム | 11,601人 | -2,695人 |
| 2 | タイ | 10,907人 | -430人 |
| 3 | 韓国 | 10,020人 | -580人 |
| 4 | 中国 | 5,827人 | -738人 |
| 5 | フィリピン | 4,393人 | -291人 |
在留資格別では短期滞在が4万1,607人と全体の6割を占め、技能実習は9,323人で前年から2,181人減りました。ベトナムの減少幅が全体の減少の大半を占めている構図です。「ベトナムからの不法残留が急増している」という前提は、統計上は当てはまりません。
誤解しやすい点と注意点
ここは混同されやすい部分です。今回の罰金を科すのはベトナム政府であり、日本の入管が徴収するものではありません。日本側の退去強制や上陸拒否期間とは、別々に適用される仕組みです。
対象も限定されています。政令が挙げているのは「契約に基づいて海外で働くベトナム人労働者」で、しかも脅迫などによらず自らの意思で残留した場合という条件が付いています。留学や短期滞在で来日した人がそのまま対象になるとは書かれていません。
また、罰金の幅は8,000万〜1億ドンと定められており、全員が一律に上限を科されるわけではありません。個別の適用は現地の運用によります。日本語の報道では「最大60万円」という上限だけが見出しに出やすいため、幅がある点は押さえておきたいところです。
よくある質問
Q1. いつから適用されますか?
2026年9月10日からです。政令283/2026/ND-CPは2026年8月19日に公布され、9月10日に効力が発生します。施行日より前の行為をどう扱うかは、ベトナム側の運用に委ねられます。
Q2. 罰金を払わないとどうなりますか?
政令では罰金のほかに、資格証の一時剥奪や事業停止などの補充的な措置が定められています。個人の未納にどのような手段が取られるかまでは、公表資料からは確認できません。断定を避け、現地当局の案内を確認してください。
Q3. 日本の受け入れ企業に影響はありますか?
罰金の名宛人は労働者と現地の業者であり、日本の企業へ直接科される規定ではありません。ただし帰国を選ぶ人が増えれば人員計画に影響が及びます。送り出し機関との契約内容や、時効延長の影響については確認しておくと安心です。
Q4. 出頭すると収容されますか?
報道では、窓口へ出頭して出国命令を受けた場合は収容されずに帰国する扱いになると説明されています。個別の判断は事案によって変わるため、手続きの詳細は入管の窓口や弁護士など、専門の窓口へ相談する形が確実です。
Q5. 不法残留は増えているのですか?
いいえ。出入国在留管理庁の統計では、2026年1月1日現在の不法残留者は前年から8.5%減少し、ベトナム国籍も2,695人減りました。総数・国籍別ともに減少傾向にあります。
Q6. この記事の考察は公式見解ですか?
いいえ。「【考察】」のセクションは編集部の予想です。ベトナム政府や日本の当局が説明した内容ではありません。金額や統計はリンク先の一次情報で確認できます。
今後の見通し
短期的に注目したいのは、9月10日を過ぎたあとの出頭者の動きです。施行前の駆け込みが一段落したあとも高い水準が続くのか、それとも元に戻るのか。ここで、罰金が判断を変える力を持ったかどうかが見えてきます。
中期では、2027年1月1日現在の不法残留者統計が判断材料になります。ベトナム国籍の人数がさらに減れば、政令の効果と読む材料がそろいます。ただし円安や制度変更など要因が重なるため、罰金だけの効果を切り分けるのは容易ではありません。
もう1つの焦点が仲介業者への適用です。時効が2年に延びたことで、過去の案件をさかのぼって処分できる余地が広がりました。支店への高額な罰金が実際に発動されるかどうかは、制度の本気度を測る目安になります。
まとめ
- 政令283/2026/ND-CPは2026年9月10日施行(8月19日公布・6章68条)
- 契約終了後に自らの意思で不法残留した労働者は8,000万〜1億ドン(約48万〜60万円)
- 許可範囲外で送り出した支店は1億8,000万〜2億ドンと、より重い
- 海外就労分野の処罰時効は1年から2年へ延長
- 日本の不法残留者は6万8,488人で前年比8.5%減。ベトナム国籍も2,695人減少
金額の大きさが先に伝わりやすい話題ですが、対象は限定され、罰金を科すのはベトナム政府という点を押さえると、見え方が変わります。9月10日以降の運用と、来年公表される統計を追いかけたいところです。

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